池田清彦『正しく生きるとはどういうことか』

もし友達や恋人に『正しく生きるとはどういうことか』なんて本を薦められたら、「なんだ宗教かセミナーにでもはまっているのか」なんて思われてしまいそうですがこの本はそんなんぢゃあないんです。最近よく読んでる池田清彦さんという生物学者の本なんですが、表紙にもあるように道徳や倫理が嫌いな生物学者とのことで内容も説教じみたありがたーいお言葉がつづられる、なんてものではないのです。
この本は基本的に、

「人々が自分の欲望を解放する自由(これを恣意性の権利と呼ぼう)は、他人の恣意性の権利を不可避に侵害しない限り、保護されなければならない。但し、恣意性の権利は能動的なものに限られる」(10p)

ということを一冊かけて述べている。何だか難しそうに書いてあるけど、基本的には人の邪魔をしなければ何をしてもいいですよ、ということ。で、「能動的なものに限られる」というのはする権利はあるけどされる権利はないということ。「彼女にあんなにプレゼントしたのに何もしてくれない」とかいうのはナシよってこと。これを心がけて生活するだけでかなり「善く生きられる」と思う。「善く生きる」って何だって思うかもしれませんが、それも一応定義してあります。

「善く生きるとは、あなたの欲望を最も上手に解放することだ」(21p)

これの「上手に」ってとこが肝ですね。解放しまくりでは逆に上手くいかない、ってことも書いてあります。さらに欲望の解放で他人とぶつかることもある訳で、その調整の仕方のヒントも書いてあるという素晴らしい本です。なんて書くとノウハウ本みたいに思われそうですけど、あくまで考え方が書いてある本ってことです。
こんな素晴らしい本なんですけど、なぜかすでに絶版のようです。出版元の新潮社のネット通販からは買えないし、他の所でもほとんど在庫なし。運よくブックオフで見つけて読めましたけど、古本で買うにしてもほとんど見つからないでしょうね。(実際何軒か古本屋をみましたけど全然なかった)。あんまり売れなかったのかな。同じ「新潮OH!文庫」の『LOVE論』(つんく著)は一杯あったんだけど…。